◆◆救国シンクタンクメールマガジン 25/07/02号◆◆
6月22日、アメリカ軍がイランの核施設3カ所を空爆し、世界に衝撃が走りました。つい1ケ月前までは、イスラエルをけん制し、テヘランとの協議を進め、戦争に消極的な湾岸諸国との関係を温めていたトランプ大統領が、外交から直接行動へと素早くシフトしたのはなぜでしょうか。
アメリカは、20年以上にわたってイランの核兵器保有を阻止するために、直接的な軍事行動以外のあらゆる手段を用いてきました。オバマ政権は2015年にイランの核開発に制限を加えIAEAによる監視を可能にするイラン核合意(「包括的共同作業計画:JCPOA)を成立させました。トランプ政権1期目では、合意内容が不十分だとして2018年に枠組みから離脱し、制裁と圧力によって譲歩を迫る「最大限の圧力」政策を取ってきました。2019年には、イラン核施設への軍事攻撃を検討したものの、リスクの大きさから最終的に断念したといわれています。
これに対しイランは、特に濃縮に関する制限を破り2021年にはフォルドウでの濃縮活動を再開しました。今年6月の国際原子力機関(IAEA)理事会の報告書によれば60%レベルまで濃縮された高濃縮ウランを409キロ保有しているとのことです。これを90%以上に濃縮して核弾頭にすると9~10個分に相当します。
イスラエルはイランの核兵器開発まで残された時間が少ないと危機感を高め、本年4月以来イランとの2国間協議を続けているアメリカを横目に軍事行動に踏み切りました。6月12日夜に始まったイスラエルの奇襲攻撃「ライジング・ライオン」作戦は、核施設だけではなく、防空システム、航空基地、ミサイル・システム、そしてプログラムに関わる多くの幹部や要人を含む、大規模かつ広範な目標に及ぶもので大きな成功を収めました。
イスラエルがイランへの軍事攻撃を計画しているという情報は、トランプ政権誕生直後の2月12日に米情報機関のレポートとしてワシントン・ポスト紙がすでに報じていました。イスラエルの周到な攻撃を見ると、長期にわたる情報収集と分析に基づいていることは明らかです。また要人殺害は目標の周辺に入り込んだリアルタイムの情報源が不可欠ですから、その情報ネットワークの深さと拡がりが窺えます。
イスラエルの軍事攻撃はアメリカとイランの2国間協議をぶち壊しました。しかしアメリカがイランとの協議を進める一方でイスラエルと連携して軍事攻撃を準備していたと仮定するとどうでしょう。まずイスラエルがイランの防空システムや弾道ミサイルなどの脅威を制圧し、次いでアメリカが最終目標である核施設に精密打撃を加えるという鮮やかな連携プレーです。筆者の目には、一連の航空攻撃作戦は、良く研究され、リハーサルされたアメリカとイスラエルの共同作戦のように見えます。アメリカのイランとの2国間協議は、イスラエルの奇襲を成功させるための煙幕だったのではないかとすら思えます。
アメリカが目標とした3か所の核施設のうち、地中深くの施設を破壊するバンカーバスター爆弾が使用されたのはナタンズ(爆弾2発)とフォルドウ(爆弾12発)でした。イランの核開発プログラムに詳しいアメリカの専門家によれば、イランがフォルドウの地下濃縮施設の建設に着手したのは2006年で、ウラン濃縮を開始したのは2011年後半です。国防総省の国防脅威削減局(DTRA)の分析官は、当地の建設状況から資器材の搬入などを詳細に監視分析してきました。この間に、どのようにして核施設を破壊するかという研究も並行して進められ、13トン級の巨大なバンカーバスター爆弾はこのために開発されました。
とはいえ、トランプ大統領の頭の中が「軍事攻撃ありき」ではなかったことは、6年前にも一度軍事攻撃を断念していることや、最近の一連の発言から見てとれます。今回、外交から直接行動へと素早くシフトしたのは、有利な条件が揃ったことによって、「核兵器開発の危険を除去して中東に平和をもたらした」との評価を得られそうだというトランプ大統領の「計算」が働いたと考えられます。
「有利な条件」というのは、第1に、2023年10月のハマスの攻撃、シリアのアサド政権崩壊によって、イスラエルがイランの代理集団であるハマス、ヒズボラ、フーシ派などのネットワークを劣化させることに成功していることです。イランにとっては報復の選択肢が限定され、エスカレーションのリスクが最小になっています。
第2に、トランプ大統領1期目の2020年に、UAE、バーレーン、モロッコ、スーダンがイスラエルとの関係正常化に合意したアブラハム合意が、イランの核開発計画中断によって中東諸国に拡大し中東地域の緊張緩和を進めることが期待されることです。ただしこのためにはイスラエルの軍事攻撃を早く止めなければなりません。
第3に、6 月12日以来のイスラエルによるイラン攻撃の成功によって、イランの防空網が著しく劣化し、イランの軍事通信網は混乱し 、イランのミサイル兵器の半分程度は破壊されたと見られていることです。アメリカ軍にとって前例のない低リスクでの攻撃が可能になり、バンカーバスター爆弾でイランの核開発能力を破壊または低下させる成算が浮上しました。バンカーバスターを唯一搭載可能なB-2爆撃機はアメリカの核戦略の一翼を担う重要な資産ですが、わずか19機しかないので1機も失うわけにはいかないのです。
最後にトランプ大統領を動かしたのは、「強い大統領」への憧憬でしょう。強さをディールのカードにする目論見もあるのでしょう。トランプ政権1期目では、フロリダの私邸に習近平氏を招いて夕食会を開いている最中に、シリアを軍事攻撃したことを誇示したことがありました。このときは「オバマにはできなかっただろう」と言っています。2020年の大統領選でバイデン氏に敗れたトランプ氏は、バイデン政権がロシアのウクライナ侵略を抑止できなかったこと、アフガニスタンでタリバンの攻勢を止められずに「不名誉な撤退」作戦となったことについて、「自分が大統領ならこういう結果にはならなかった」と発言しています。バイデン政権の弱さがプーチンや、タリバンを増長させたと見ているのです。ウクライナとガザの和平調停が不調な中にあって、イスラエルのイラン攻撃の成功はトランプ大統領にとって「千載一遇のチャンス」と映ったのではないでしょうか。
軍事的に見ると、アメリカのイラン攻撃「ミッドナイト・ハンマー」作戦は、これまでに実施された軍事作戦の中で、最も複雑で、緻密で、一貫性のあるものでした。異なる軍種と指揮官の戦闘司令部間の調整によって、作戦行動の偽装、サイバー攻撃、電子妨害、限られた空域での活動調整、潜水艦からのミサイル攻撃などを組み合わせたマルチドメイン作戦であり、成功例として後世に伝えられていくでしょう。アメリカ統合参謀本部議長のダン・ケイン大将は、リモートで行った作戦会議の参加者の「何千人もの科学者、飛行士、整備士が一堂に会するスーパーボウルのようだった」という発言を紹介しています。
さて攻撃の成果ですが、本稿執筆時点の7月2日現在までのところ大きく振れています。まず国防総省の国防情報局(DIA)の初期評価情報として、核開発計画の中核部分は破壊されず計画を数カ月遅らせる程度にとどまった可能性が高いと報道されました。この報告に対して、ラトクリフCIA長官は、「イランの核開発計画が深刻なダメージを受けたことを示す信頼できる情報がある」と発表し、イスラエル情報当局者もイランの核施設に対する攻撃は非常に重大かつ長期的な損害を与えたと発表しています。トランプ大統領はイランの核開発施設は「完全に破壊した」と断言しています。対するイラン最高指導者のハメネイ師は26日のテレビ演説で「米国はイランの核施設を攻撃したが大きな成果はなかった」と語りました。IAEAのグロッシ事務局長は、「数カ月以内に(中略)複数の遠心分離機を稼働させ、濃縮ウランを生産できる」可能性があると述べました。
一方で6月28日、アメリカのCNNは、空爆した3カ所のうちイスファハンでは、核施設が地下深くにあり効果が期待できないためにバンカーバスターが使われなかったとスクープしました。イランは貯蔵する濃縮ウランの60%をイスファハンの地下施設に保管しているとともに、すでに60%まで濃縮したウラン約400㎏もここに保管されている可能性が高いと見られています。イスファハンには潜水艦から発射されたトマホーク・ミサイル20数発が指向されましたが、バンカーバスターが使われなかったのであれば、地下施設は破壊されていないことになります。地上の核施設は破壊したが、地下にある原料のウラン、濃縮ウラン、そして濃縮設備も一部は無事だということになりそうです。
軍事力行使の成果に関する情報が、客観的な事実を越えて政治化していくドラマを私たちはいま見ています。私たちに必要なのはその見極め、「インテリジェンス・リテラシー」の能力です。ここまでの私の結論は、「イランの核兵器開発能力は一部毀損したが、数か月ほどで復興可能であり、核開発をめぐる中東の緊張は続く」ということです。
(了)
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◆◆ 救国シンクタンク第9回フォーラム ◆◆
◇日 時:2025年8月3日 15時開演
◇場 所:星陵会館 東京都千代田区永田町2丁目16−2
◇テーマ:「戦後80年 救国に向けて、大事な論点」
◇出演者:
倉山 満 救国シンクタンク 理事長兼所長
渡瀬 裕哉 救国シンクタンク 研究員
内藤 陽介 救国シンクタンク 研究員
小川 清史 救国シンクタンク 研究員
江崎 道朗 救国シンクタンク 客員研究員
金子 洋一 救国シンクタンク 客員研究員
◇プログラム:
開演
開会挨拶
第一部 倉山 満による基調講演
休憩
第二部 各出演者によるクロストーク
閉会挨拶
閉演
※プログラムは変更する場合もございますので予めご了承ください。
◇お申込み:
下記URLからお申込みください。
【会員様無料チケット】 https://kyuukoku-forum-9.peatix.com/view
※このURLは会員様専用です。転載、拡散はお控えください。
【一般ご来場者様チケット】https://kyuukoku-forum-9-general.peatix.com/view
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【第12回】 救国シンクタンクセミナー自治体経営研究会
◆開催日時:令和7年9月28日(日)14:00~17:45(13:30受付開始)
【場 所】TKP秋葉原カンファレンスセンター
〒101-0021 東京都千代田区外神田1-1-8 東芝万世橋ビル
【テーマ】「地方自治体の規制改革」
【講 師】渡瀬 裕哉 救国シンクタンク理事・研究員
【プログラム】※プログラムは変更する場合がございます。
受 付:13:30
開 会:14:00
・活動報告:地方議員の活動成果報告
・セミナー
閉 会 :17:45
※セミナーの後に懇親会を予定しております。別途お申込みとなります。
◆参加申込(Peatixにて受付いたします)
お申込みURL:https://kyuukoku-seminar-12.peatix.com/
・地方自治体【首長・議員】(参加費20,000円)
・立候補予定者、一般アクティビスト(参加費5,000円)
本セミナーは、地方自治体の首長・議員・立候補予定者の方々を対象にしておりますが、アクティビスト志望の会員様やそれ以外の一般の方もご参加いただけます。
減税や規制改革、事務事業評価、安全保障などに取り組んでいる「首長・地方議員・立候補予定者」をご存じの方は、ぜひこのセミナーをご紹介ください。
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《救国シンクタンク叢書 シリーズ第7弾完成》
【国家防衛分析プロジェクト 徹底検証 防衛力抜本強化】
救国シンクタンク (編集), 江崎 道朗 (著)
◇防衛に関するスペシャリスト・安全保障に精通する専門家との対話形式で進む現代の防衛について知識を深めることができる1冊です。
2022年12月岸田政権は、5年間で43兆円の防衛関係費を閣議決定し、防衛力の抜本強化に乗り出した。これまで防衛力の強化が出来なかったことが「安保三文書」の策定、予算倍増しただけで出来るようになるのか?
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《救国シンクタンク翻訳叢書 第二弾完成!》
【 大きな政府の社会主義を打ち破れ!: アメリカの未来を救う】
ニュート・ギングリッチ (著), ダニエル・キエロン・マニング (翻訳),
監修:渡瀬裕哉(救国シンクタンク研究員)
救国シンクタンクではこのたび、ニュート・ギングリッチ元連邦下院議長の最新著作
『大きな政府の社会主義を打ち破れ!: アメリカの未来を救う(Defeating Big Government Socialism: Saving America’s Future)』を救国シンクタンク翻訳叢書として出版いたしました。

翻訳叢書プロジェクトは皆様のご寄付により2冊の書籍を出版することができました。
誠にありがとうございました。心より感謝申し上げます。
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《救国シンクタンク翻訳叢書完成!》
【 Leave US Alone: 減税と規制緩和、アメリカ保守革命の教典】
監修:渡瀬裕哉(救国シンクタンク研究員)
全米で最も影響力のある政治戦略家の一人でもあるグローバー・ノーキスト氏が、保守派に向けた大胆なマニフェストとビジョンを提示する。
経済、人口統計、政治動向を通じて、アメリカ政治がこれまでどこにあったのか、どのように変化していったのか。本書『Leave Us Alone』は、アメリカ政治をより深く理解するための必読の書である。
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《救国シンクタンク叢書 第5弾『皇位継承問題』》
救国シンクタンク“日本の未来を考える”シリーズの第五弾。第一部では「皇位継承問題とは何か」を學館大学 現代日本社会学部教授、新田均氏が、「皇位継承問題と政治」については産経新聞社 論説委員長、榊原智氏が、「後花園天皇と伏見宮家」というテーマで国際日本文化研究センター 名誉教授渡今谷明氏が、「旧皇族の男系男子孫の皇籍取得は憲法第十四条違反なのか」と題して弁護士、山本直道氏が、そして「秋篠宮家の現在と未来」を皇室評論家の髙清水有子氏がそれぞれの知見を持って論じる。第二部では倉山満氏をモデレーターに、それらの専門家が皇位継承問題について白熱したクロストークセッションを展開する。
皇位継承問題について、専門家たちが描き出す今を表した必読の書。
《令和5年7月30日(日)第7回フォーラム「皇位継承問題」》
救国シンクタンク第7回フォーラム「皇位継承問題」ダイジェスト
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《救国シンクタンク叢書 第4弾『大国のハイブリッドストラグルII: 大国の衰退と台頭がもたらす地域紛争』》
『大国のハイブリッドストラグルII: 大国の衰退と台頭がもたらす地域紛争』(2023年)
救国シンクタンク第6回フォーラム「大国のハイブリッドストラグル2023新春 」
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《救国シンクタンク叢書 第3弾『なぜレジ袋は「有料化」されたのか』》
『なぜレジ袋は「有料化」されたのか』(2023年)
いよいよ新発売!レジ袋有料化「義務化」は嘘だった!? 救国シンクタンク叢書『なぜレジ袋は「有料化」されたのか』 内藤陽介 渡瀬裕哉
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