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ミサイル防衛に立ちはだかる二つの壁
研究員 江崎道朗
安倍総理が退陣表明をした直後、トランプ大統領と電話会談をしました。その模様は次のように報じられています。
安倍首相、トランプ大統領と電話会談…北・拉致問題で緊密な連携呼びかけ 2020/08/31 12:55 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200831-OYT1T50101/
「首相はまた、北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上などを踏まえ、「日米同盟をさらに深化させるべく、ミサイル措置に関する安全保障政策の新たな方針の具体化を進めていく」と説明。9月の退陣までに、新たなミサイル防衛のあり方を取りまとめる考えを伝えた。」
ミサイル防衛問題については、自民党「ミサイル防衛検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛相)が8月4日、「国民を守るための抑止力向上に関する提言」を安倍総理に提出し、次の三点を国家安全保障会議(NSC)で検討するよう求めています。
https://www.jimin.jp/news/policy/200442.html
第一が「総合ミサイル防空能力の強化」で、「イージス・アショア代替機能の確保」と共に、「経空脅威の増大・多様化に対応するため、地上レーダーや対空ミサイルの能力向上等」を推進すること。
第二が「抑止力向上のため」、「米国との緊密な協議」を求めると共に、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を検討すること。後者の「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」は、いわゆる「敵基地反撃能力の保持」のことです。
第三が「地方公共団体と連携した避難施設(既存の地下施設の利用を含む、シェルター等)やその関連技術の確保を含む、国民保護のための体制強化に取り組むこと」です。ミサイル攻撃を受けたら、従来のミサイル防衛体制だけでは完全に防ぐことはできないので、ミサイル攻撃を受けることを前提に、国民保護体制を本気で整えるべきだと主張したわけです。
この三つの提案を実現するためには、二つの組織の壁を乗り越えないといけません。
一つは、憲法解釈を担当する内閣法制局です。
自民党の「提言」は「憲法の範囲内で」、「自衛のために必要最小限度のものに限るとの従来からの方針を維持」することを強調しています。
なんでこのようなことを強調しているのかと言えば、従来の憲法解釈、つまり内閣法制局の見解を変えるつもりはないので容認してもらいたいと、内閣法制局に懇願しているわけです。内閣法制局に反対されたら、こうした防衛政策は頓挫してしまうからです。
しかし、内閣法制局は「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」は憲法に違反する恐れがあるなどと、屁理屈をつけて妨害してくることが予想されます。というのも、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」とは、相手国の領域に入り込むミサイル、爆撃機などの保有が想定されるからです。
そして内閣法制局のこれまでの見解は、相手国を攻撃できる兵器をもつことは憲法違反の恐れがある、というものです。よって、内閣法制局の反対を押し切ることができるのか、というのが一つ目の壁です。
もう一つが、財務省です。
これらの「提言」を実現しようとすれば、当然のことながら防衛費を増やすことになりますが、緊縮財政路線の財務省から猛反対されることになるでしょう。
「地方公共団体と連携した避難施設(既存の地下施設の利用を含む、シェルター等)やその関連技術の確保を含む、国民保護のための体制強化に取り組むこと」、これ一つをとってもミサイル攻撃から身を守るシェルターを全国に作ろうと思えば、莫大な予算が必要となります。用地買収、シェルターの建設、シェルターに避難する住民のための生活物資の備蓄など、本当に大変です(デフレ状況下で、需要の創造という意味では、意義のある事業だと思いますが)。
よって自民党がいくら「提言」をしようとも結局、内閣法制局と財務省に反対されて、その提言はしりすぼみになり、「米軍による反撃能力を強化する」といったことだけが実現することになると思われます。内閣法制局も財務省も、在日米軍の強化については反対しないからです。
こうやって政治家たちが内閣法制局と財務省を説得できず、自分の国は自分で守る防衛体制が骨抜きになってきたのが、戦後の歴史なのです。言い換えれば、日本の真の敵は、内閣法制局と財務省を説得できない政治家たちの不勉強だ、ということです。
一方、自由主義国、例えばアメリカやイギリス、ドイツなどは、官僚機構に対抗するシンクタンクがあり、日ごろ、忙しくて勉強する暇がない政治家たちに「官僚に対抗する知恵」を付ける仕組みを整えています。
その背景には、国家の独立と安全にかかわる安全保障、防衛問題については、国民の負託を受けた政治家が決定すべきであって、官僚の言いなりになるべきではないという「国民的な合意」があるからです。
自分の国は自分で守る安全保障体制を強化していくためにも、国家の独立と安全にかかわる安全保障、防衛問題については、国民の負託を受けた政治家が決定すべきであって、官僚の言いなりになるべきではないという「国民的な合意」を構築していきたいものです。
言い換えれば、こうした「合意」と「民間シンクタンクの活用」があったならば、安倍政権のもとで憲法改正を含む防衛体制の整備がもっと進んだに違いありません。
(救国シンクタンクメルマガ「自主独立のための選択肢」No.10 より)
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