◆◆救国シンクタンクメールマガジン 2024/5/20号◆◆
イラン北西部の東アゼルバイジャン州で、きのう(19日)、同州内の国境地帯にアゼルバイジャンと共同で建設したダムの落成式典に参加後、移動中のエブラーヒーム・ライースィー(ライシとも)大統領、ホセイン・アミールアブドッラーヒヤーン(アブドラヒアンとも)外相を乗せたヘリコプターが悪天候のため墜落。現時点でイラン当局の正式な発表はありませんが、大統領・外相の生存は絶望視されています。
※5/20(月)イラン国営テレビは20日朝、エブラヒム・ライシ大統領やホセイン・アブドラヒアン外相らがヘリコプターの事故で死亡したと報じました。(事務局)
2021年に大統領に就任したライースィー政権は、現在85歳となった最高指導者、ハーメネイー(ハメネイ)の後継者と見られていました。
ハメネイはホメイニ時代の大統領としてイラン・イラク戦争を戦い、その実績により、ホメイニから最高指導者として後継指名を受けた人物です。大統領時代は、外相のムーサヴィーと共に極秘裏に米国との関係を改善し、国際社会のイラン包囲網を打破しようとする積極外交を主導した人物です。その後、彼の積極外交は、イラン国内の権力闘争の余波で対外強硬派が秘密を暴露し、米国もイラン・コントラゲート事件でイランを切り捨てたことで頓挫しましたが、必要とあらば、米国との妥協も辞さないというのは2015年の核合意でも明らかです。もちろん、イランは、トランプ政権が(イラン側から見れば)一方的に核合意を破棄し、経済制裁を再開したため、以後、対米不信を募らせてはいますが、2020年1月のソレイマーニー司令官事件や、2024年4月のダマスカスのイラン大使館領事部へのイスラエルによる爆撃などに関しては、米国を本気で怒らせない程度の絶妙な匙加減での報復攻撃を行っており、米国との全面衝突を回避することが基本方針であるのは間違いありません。実際、2023年5月17日には域内情勢のエスカレーションを避けるためとしてイラン側はバイデン政権の高官と間接的な協議を行っており、2025年1月20日以降、米国の“新政権”発足後をにらんで対米関係改善のための布石を打っています。
一方、1960年生まれのライースィーは、テヘラン次席検事時代にホメイニに見いだされ、“(司法から独立した)特別な規定”を与えられ、ロレスターン、セムナーン、ケルマーンシャーなど各州の司法改革に取り組み、2014-16年に検事総長。2019年、司法府長官に就任し、反汚職キャンペーンを展開したキャリアの持ち主ですが、2021年の大統領選挙の候補者の中では唯一のイスラム法学者だったことが重要です。
イスラム法学者の序列からいえば、ライースィーよりも上位の人物は存在するのですが、大統領ないしはそれに次ぐ立場で政治の実務を担当した者はいません。ハメネイが大統領を経て最高指導者に指名されたという先例を踏まえるなら、ハメネイとしては、ライースィーを自らの後継者として指名するためのキャリアパスとして、ライースィーを大統領にし(他の有力候補を排除することで、選挙を有名無実化した)、ライースィー政権下で経済再建と(可能であれば対米関係の改善)を実現し、その実績によってライースィーを次期最高指導者に指名するというのが既定のシナリオだったと考えるのが妥当かと思われます。
今回のライースィーの遭難により、ハメネイの後継者問題は白紙に戻ったことに‥‥
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